積ん読漫画を読んではくずし…ツミヤマです。
本日は将棋のタイトル戦のひとつ、竜王戦をテーマとした連載中の作品をふたつご紹介します。
集英社 綿引智也/春夏冬画楽 -盤王-バンオウ
小学館 柳本光晴 龍と苺
なぜ「竜王戦」がテーマに選ばれるのか
数あるタイトル戦のうち、なぜ竜王戦なのか。
理由のひとつは、優勝賞金が将棋の全タイトル戦の最高額であること。
竜王戦を勝ち進んで見事優勝となれば、その賞金はなんと4400万円。
賞金額でランクが決まる将棋のタイトル戦の中でも、「名人」と並んで最高位の称号。
将棋の強さとなるとまた難しい話にはなりますが、最高位=最強のイメージはやはり強く、創作のテーマにされやすいのでしょう。
「-盤王-バンオウ」はある理由からこの賞金獲得のために主人公が動くことで展開します。
そしてもうひとつ、最大の理由は「アマチュアにも参加権利があること」です。
将棋のタイトル戦はほとんどがプロ棋士になってからでないと参加することができませんが、竜王戦は数少ないアマチュアにも参加枠のあるタイトル戦です。
プロ棋士になる為の一般的な方法が、
・プロの師匠に弟子入り後、奨励会に入り昇級を重ね、三段リーグで勝ち抜く
というもの。
しかしこのプランには年齢的な制限があり、まず奨励会に入会することができるのは19歳まで。
そして奨励会に在籍できるのは26歳まで(三段リーグでの成績次第では29歳まで)と定められています。
半年に一度行われる三段リーグからプロになることができるのは、一回につきたったの2名。
将棋のプロとはそれだけ厳しい戦いを勝ち抜いてきたエリートということです。
上記の正規ルート以外にも方法はありますが、
・アマチュアでも参加できるタイトル戦でプロとの対局(10戦以上)で勝率6割5分以上を収めた上で試験に合格する
・アマチュアの大会で優勝し三段リーグの編入試験に合格後、三段リーグで勝ち抜く
詳しい説明は省きますが、上の正規ルートよりも更に険しい道のりとなります。
いずれにしても将棋の世界では年齢がネックになりがちで、若ければ若いほど良いのです。
さて、そんな将棋の知識を踏まえた上で、今回ご紹介する2タイトル。
「龍と苺」の紹介
「龍と苺」は週刊少年サンデーにて連載中の作品。
2020年5月から連載され、2023年7月現在単行本は12巻まで刊行されています。
作者はマンガ大賞の受賞や実写映画化もされた人気タイトル「響~小説家になる方法~
」で有名な柳本光晴先生。
今作も響と同じくちょっと頭のネジが外れた天才少女が主人公です。
「龍と苺」は将棋には全く興味のなかった主人公の中学生、藍田苺が溢れる才能とここ一番の勝負強さでアマチュアの身分から竜王戦に挑戦する話。
特に将棋好きの人は、序盤は礼儀もなく傍若無人な藍田苺を苦手だな、と感じることもあると思います。
しかし最近の展開から、このマンガの裏テーマには、将棋を通じた苺の人間的成長というものも含まれているように感じます。
将棋の才能があることがわかってからも頑なに奨励会入りは断り、あくまで因縁あるプロ棋士に勝つためだけにアマチュアから竜王戦を駆け上がる苺。
将棋が強い、というよりは勝ちへの執念が並外れた藍田苺の、勝つための準備を妥協しない姿勢は見ていて面白く、学ばされるところもあり。
ただの天才ストーリーだけではない面白さ、是非体験してください。
「-盤王-バンオウ」の紹介
「-盤王-バンオウ」はジャンプ+で連載中の作品。
2022年末から連載開始、単行本は2023年7月現在、2巻まで発売されております。
原作の綿引智也先生はジャンプ+にて、別の作画担当の方と2作ほど読み切りを発表されています。
作画の春夏冬画楽(あきない がらく)先生はおそらくこの作品でデビューの新人作家。
絵が上手すぎるので、ひょっとすると過去に別名義でなにか活動されていた可能性はあります。
「-盤王-バンオウ」は、将棋と出会ってから300年、ひたすらに打ち続けて強くなった吸血鬼の月山が主人公の、ややファンタジーが入り込んだ世界観の将棋漫画。
こちらは将棋の創作ではありがちな天才を主人公とするものではなく、才能はなくても将棋を愛し続け、長い長い時間で膨大な対局数をこなすことで強さを得た主人公が表舞台に出てくるという一風変わった漫画です。
正体がバレないようにネット将棋中心に対局を続けていた月山が、居場所を守るためのお金と才能あふれるプロ棋士と戦いたい欲望という2つの目標を持ってアマチュアから竜王戦に挑んでいくことになります。
自分が勝利した後にも、
「たった20年そこらでここまで指せんのかよ―― 化物か!」
などと人間の相手を称賛する月山は好感が持てる主人公。
対局中には吸血鬼特有の苦しみもあったりなど、一筋縄ではいかない様子も面白いです。
2作品の比較とまとめ
同じ竜王戦をテーマにし、アマチュアがプロを打倒していくマンガですが、強さや将棋への愛情度など、アプローチの仕方が全くの真逆。
藍田苺が将棋を「因縁のある相手を倒すため」の手段としているのに対し、月山は純粋に将棋そのものが好きで、「もっと強い人間と戦いたい」ということを目的としています。
また強さへの裏付けが前者は「才能と勝ちへの異常な執念・研究」であるのに対して、後者は「圧倒的に長い時間の修練」となっています。
この二人が対戦したら一体どうなるんでしょう…。
現実世界では史上最年少で七冠を達成した藤井聡太竜王が話題となっており、史上初の八冠に向けて、残る王座戦の挑決トーナメントを順調に勝ち進んでいるところ。
確かにこれでは、もうフィクションでプロの話を描いても現実のほうが凄すぎて。
やれることは「アマチュアからの竜王戦勝ち抜き」しかない…というのもわからんでもないですね。
今回はいま読んで欲しい将棋漫画2作品をご紹介しました。
「龍と苺」はサンデーうぇぶりにて、「-盤王-バンオウ」はジャンプ+にてそれぞれ無料で読むことができますので、アプリをお持ちの方はぜひそちら読んでみてください。
それでは。
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